うらしまたろう

むかしむかし、ある村に、浦島太郎(うらしまたろう)という漁師がいました。

浦島太郎は、毎日つりざおをかついでは海へ出かけて、おさかなを釣って、おとうさんおかあさんを養っていました。

ある日、太郎が漁に出ようと海辺を通りかかると、子どもたちがさわいでいました。

何かと思って近づいてみると、子どもたちが小さなカメをいじめているのです。

「おやおや、かわいそうに、はなしておやりよ」と止めようとしたものの、「いやだよ。やっとつかまえたんだ。かまうもんかい」
小さなカメは涙をハラハラとこぼしながら、太郎を見つめています。

太郎はますますかわいそうになり、「それでは、このお金をあげるから、カメをはなしておくれ」と、子どもたちにお金を差し出して言いました。

すると子どもたちは、喜んでどこかへ行ってしまいました。

太郎は「もう、つかまるんじゃないよ」と、カメをそっと海の中へ逃がしてやると、カメは太郎を何度も見ながら、海へ帰っていきました。

それから何日かたったある日、太郎が海に出て漁をしていると、
「太郎さん、・・・太郎さん」
と、だれかが呼ぶ声がします。

「おや? だれが呼んでいるのだろう?」

なんと大きなカメが泳いできて話しかけてきたのです。

「このあいだ小さなカメを助けてくださって、ありがとうございました。お礼に竜宮城におつれしますよ」

カメは太郎を背中に乗せて、海の中を深く深くもぐっていきました。

海の中は、昆布やピンクのサンゴの森が、どこまでも続きました。

しばらくしてサンゴの森を抜けると、目の前にきらきらと光り輝く大きな門があらわれたのです。

それは竜宮城に続く入口でした。

門をくぐり竜宮城に入ると、「ようこそ、太郎さん。わたしは乙姫と言います。このあいだは助けてくださって、ありがとうございました」

なんと、太郎が助けたカメは、乙姫だったのです。

「どうぞ、ゆっくり楽しんでいってくださいね」
竜宮城の広間へ案内されると、そこにはたくさんのご馳走がならび、舞姫たちがはなやかにおどりはじめ、太郎は夢中になっていました。

その後、乙姫が竜宮城のふしぎな部屋を案内してくれました。

そこには、春、夏、秋、冬の景色がひろがり、それはとてもうつくしいものでした。

太郎はたのしく暮らしているうちに、いつの間にか三年がたっていました。

だんだんとふるさとにいる親や友人たちのことが気になってきた太郎は、乙姫に「みんながわたしの帰りを待っている。もう帰らなければ」とつたえましたが、乙姫はとても悲しそうな顔をしていました。

乙姫はおわかれのしるしとして、きれいなほう石でかざった玉手箱を太郎に渡しました。

「この中にはとても大事なものが入っています。もしまた竜宮城に戻ってきたいと思うのなら、決してこの箱を開けてはなりません」

太郎は乙姫にお礼を言うと、カメの背中に乗って浜辺へと帰っていきました。

浜辺に着くと、カメは海へと戻っていきました。

太郎は家に向かって歩き出しました。ところがなつかしく思えた景色はどこか違って見えます。

通りかかる人も知らない顔ばかりで、自分の家があったところは草がぼうぼうに生えているだけです。

太郎は一人のおばあさんに尋ねました。

「私は浦島太郎といいますが…」

するとおばあさんは「浦島太郎は三百年も前の人だよ。なんでも漁に出たきり帰ってこなかったとか…」

なんと竜宮城での三年は、地上では三百年だったのです。

もう親も友人もだれもいません。

太郎はとてもさみしくなって途方に暮れていました。

「そうだ、この玉手箱を開ければ自分が暮らしていた時に戻るのでは」と思った太郎は、決して開けてはいけないという乙姫との約束を忘れ、玉手箱を開けてしまいました。

モクモクモク・・・中から、まっ白の煙が出てきました。

煙の中に、竜宮城や美しい乙姫の姿がうつりました。

そして楽しかった竜宮城での三年が、次から次へとうつし出されました。

「ああ、わたしは、竜宮城へ戻ってきたんだ」
太郎は喜びました。

しかし、玉手箱から出てきた煙はどんどん薄れていき、太郎は髪の毛もひげもまっ白の、ヨボヨボのおじいさんとなってしまい、竜宮城へは戻れなかったのです。