きんたろう

むかしむかし、金太郎という強い子どもがいました。

足柄山の山奥に生まれ、お母さんの山うばと一緒にくらしていました。

金太郎は生まれた時から力が強く、大人相手に相撲を取っても負けませんでした。

近所に相手がいなくなると、金太郎は一日森の中をかけ回り、お母さんにもらった大きなまさかりを担いで、大きな杉の木や松の木を切り倒しては、きこりのまねをして面白がっていました。

ある日森の奥で、いつものように大きな木を切っていると、のっそり大きなクマが出てきました。

「だれだ、おれの森をあらすのは」と言って、飛びかかってきました。

金太郎はまさかりをほうり出して、クマに組みつき相撲を始め、地べたに投げつけました。

クマは両手をついて謝って、金太郎の家来になりました。

森の中で大将分のクマが家来になったのを見て、ウサギやサルやシカたちが、次々に金太郎の家来になりました。

それから金太郎は、毎朝お母さんにたくさんおむすびを作ってもらい、森の中へ出かけるようになりました。

金太郎が口ぶえを吹いて「さあ、みんな来い」と呼ぶと、クマを先頭にシカやサルやウサギがのそのそと出てきました。

金太郎はこの家来たちをお供につれて、一日山を歩き回りました。

ある日、家来の動物たちと森の中を歩いていると、大きな谷川のふちへ出ました。

水がごうごうと音を立てて、ものすごい勢いで流れていきますが、橋がかかっていません。

「どうしましょう。あとへ引き返しましょうか」と動物たちが言いましたが、金太郎は平気な顔をして、「なあに、だいじょうぶだよ」と言いながら、ちょうど川の岸に二かかえもあるような大きな杉を両手にかけました。

二、三度押すとめりめりと音がして、木が川の上に倒れかかり、りっぱな橋ができました。

金太郎はまさかりを肩にかついで、先にわたっていきました。

みんなは顔を合わせて、「すごい力だなぁ」とつぶやきながらついていきました。

その時、向こうの岩の上に木こりが一人いて、この様子を見ていました。

金太郎が軽々と大きな木を倒したのを見て、目をまるくしながら、「ふしぎな子どもだな、どこの子だろう」とおどろいていました。  そして立ち上がって、そっと金太郎のあとをついていきました。

金太郎は家来の動物たちをつれて、深い山奥の一軒家に入っていきました。

きこりが家の前まで来て中をのぞくと、金太郎はいろりの前に座って、お母さんの山うばに、今日あったことを話していました。

その時、きこりは出しぬけに窓から首をぬっと出して、「坊や、おじさんとすもうを取ろう」と言いながら、家に入っていきました。

そしていきなり金太郎の前に毛むくじゃらな手を出しました。

金太郎はおもしろがって、「ああ、取ろう」とかわいらしい手を出しました。

そこで二人はしばらく真っ赤な顔をして押し合いました。

そのうちきこりはふいと、「もうよそう。勝負がつかない」と言って手を引っ込めてしまいました。

すると座りなおして、山うばにむかっておじぎをして、「金太郎、 どうだね、坊やは都に出てお侍にならないかい」と言いました。

このきこりは実は碓井貞光(うすいさだみつ)といって、その時代で日本一えらい大将、源頼光の家来でした。

そしてご主人から強い侍を探してこいという仰せを受けて、きこりのふりをして日本のあちこちを歩き回っているのでした。

山うばもたいそう喜んで、「じつはこの子の亡くなりました父は、坂田というりっぱな侍でございました。いつか金太郎を都に出して侍にしてやりたいと思っておりました」と言いました。

金太郎は、お母さんの山うばや家来の動物たちに見送られ、貞光と都へ旅立っていきました。

そして貞光は頼光のおやしきへ行って、金太郎を頼光のお目にかけました。

頼光は強そうな子どもだと言いながら金太郎の頭をさすり、父の名が坂田というなら、これからは坂田金時と名乗るように言って、金太郎は坂田金時として頼光の家来になりました。

そして大きくなると渡辺綱(わたなべのつな)、卜部季武(うらべのすえたけ)、碓井貞光と一緒に頼光の四天王と呼ばれるようになり、りっぱな侍になりました。